オーストラリアの大地に
牧野太鼓が響きわたる


皮と金具を手にオーストラリアへ

 10月14日、牧野太鼓の6人は、姉妹都市のダボへと旅立った。これは、美濃加茂国際交流協会ダボ市交流委員会板頭芳樹さんを団長に、琴(渡辺恵子社中)や尺八(渡辺季雲さん、加藤史芳さん)、日本舞踊(藤間貴代栄会)、着物の着付け(中部装心きもの学院)、太鼓をダボの人たちに紹介しようとするもの。昨年、アンソニー・マクグレーン・ダボ市長らが産業祭を訪れ、ダボの「レッド・アース・フェスティバル」への参加を依頼したのがきっかけである。
 ダボへ向かう牧野太鼓の目的は、フェスティバルで太鼓を披露することとワイン樽を利用してダボで太鼓を作ること。しかし、皮の調達やなめしを現地でやっていては間に合わない。そこでなめした皮と、加工した金具(もちろん手作り)を持って行くことにした。


樽を取り寄せ、磨いてくれた人にいい音の太鼓で応えたい

 最大の不安は、「皮をオーストラリアへ持ち込めるかどうか」であった。事前に大使館に問い合わせ、「たぶん大丈夫」とわかっていても心配。「持ち込めなかったら、すべて終わり。だから無事に入国できたときはホッとした」とみんなが言う。
 ダボに着くと、すぐに樽のもとへ。「樽の大きさや形を早く確認したかった。持参した皮を、すぐに水に浸したかったし」と桜井忠さん。樽はテーフ・オラナ・コミュニティー・カレッジ(職業訓練学校)の教室にあり、太鼓作りはここで進められた。 現地テレビ局のマルコムさん、ダボ市との交流がある陶芸家の加納臣峰さんによって、樽はダボ市に近くワインで有名なマジーという町からを取り寄せられた。さらに職業訓練学校のスティーブ先生や生徒が、表面をピカピカに磨いてくれていた。「樽を取り寄せ、磨いてくれた人たちの努力を無駄にしない、いい太鼓を作ろう」と森さんは心に誓った。


ダボの人たちの協力で太鼓作りが進む

 樽の正確な大きさや形がわからない日本で、勘を頼りに作った金具は、はたして太鼓の胴(樽)に合うだろうか…メンバーの不安は的中した。日本で塗った塗装を落として、もう一度たたいて金具の形を直すことに。佐合充広さんは、金づちを片手にさっそく金具の修正に取りかかった。「金具を何度もたたき直すことは無理、かたくなってしまうから」と話す佐合さんは、樽と金具がぴったり合った瞬間「ホッとした」という。
 17日、金具の付いた胴にいよいよ皮を張る。しかし、皮を張るときに胴を載せる木の台が無い。そこで、校庭の隅にあった朽ちかけた木製のパレットをばらして台を製作。皮を張るには、車のジャッキも必要。「車の解体屋さんで交渉。『太鼓を作るのに使いたい』と頼んだら快くジャッキを貸してくれ、うれしかった」と片桐剛さん。


ドリームズ・カム・トゥルー

 高校生らが太鼓づくりの見学に訪れることも。「皮の上に乗ってごらん」と高校生に勧めるが、破れるのを恐れてか、なかなか乗ってくれない。実際にジェイソンさんが手本を見せ、高校生は恐る恐る皮の上へ。「いいよ、OK。レッツ・ジャンピング」とみんなで声をかけると、トランポリンのように、高校生が太鼓の上で飛び跳ねた。「みんなが楽しく皮を伸ばしてくれ、いい感じに張れた」と森さん。 太鼓が完成し、マルコムさんやスティーブ先生、工具を貸してくれた大工のウィルさんに教室でさっそく太鼓を披露。その時、「ドリームズ・カム・トゥルー」とつぶやいたマルコムさんの目には光るものが…。その涙に「来てよかった」と佐合さん感じた。「この太鼓は、牧野太鼓だけでは作れない。樽を用意し、皮張りを手伝ってくれたダボの人たち、国境を越えた多くの人々の思いが、この太鼓につまっている。この太鼓を作れて幸せだし、太鼓を通して国際交流ができたと思う」と森さんは振り返る。
 ジェイソンさんは通訳としても活躍。ときおり英語の冗談も交えて、雰囲気を盛り上げた。「彼が牧野太鼓にいたから、この太鼓が作れた」とだれもが言った。


ダボの人たちの心に牧野太鼓の鼓動が響く

 今回、5個の太鼓を組み合わせてたたいた。日本から持参した太鼓が3個、日本大使館から借りた太鼓と今回作った太鼓が1個ずつ。『チキチン』は、職業訓練学校にあった鉄製のカンナ台を利用。「オーストラリア産の『チキチン』です。鉄製のカンナ台を見つけたときはうれしかった」と高山正英さん。
 はたしてダボの人の心に、牧野太鼓は響くのだろうか…18日、不安と期待を胸に秘めた最初のステージは、地元の大型ショッピングセンターの肉屋さんの前。「ドン、ドン」と大きな音が店内いっぱいに響きわたる。その迫力に驚き、足を止めて見つめる買い物客や店員たち。「これまでで一番緊張したステージ。ダボへ来れたことに感謝した」と桜井さん。「初めてステージが海外公演なんて。ただ必死にたたいた」と笑う片桐さん。
 午後6時、市民センターを会場に「レッド・アース・フェスティバル」が始まり、オープニングと開会式で太鼓を披露。美濃加茂より乾燥しているダボでは、絶えず濡れタオルで皮をぬらしながら太鼓をたたく。オーストラリアの大地に手作り太鼓が響きわたり、一人、二人と観客が集まってきた。「皮張りを手伝ってくれた子供に、『太鼓をたたくのを見に来て』と言った。その子供を観客のなかに見たとき、心が通じたようでうれしかった」と森さん。
 たたき終わると、大きな喚声が上がった。「拍手の前に、『ウォー』という喚声が体に響くんだ、うれしかった」と佐合さん。目を潤ませて太鼓を聞き入る人たちに、「言葉のかわりに音で意思の疎通ができる」と感じた高山さん。ダボ市長は「日本の伝統文化に触れられる機会が少ないダボに、このような素晴らしい団体が来てくれてうれしい」と語った。
 牧野太鼓がダボを訪れる前、オーストラリア国内で確認できた太鼓は、日本大使館などにある3個だけ。今回、牧野太鼓は持参した太鼓3個のうちの2個と現地で制作した太鼓を、姉妹都市提携10周年を記念してダボ市に寄付。よって、現在オーストラリアにある6個の太鼓のうち、3個は牧野太鼓製。しかも最も大きい太鼓が、今回ダボで作った太鼓である。「オーストラリアで一番大きい太鼓を作ったことは誇り。太鼓はたたかれていい音になるから、どんどんたたいてほしい。今度訪れたとき、太鼓がもっといい音になっていることが楽しみ」と6人は声をあわせた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 


姉妹都市・ダボ市

 オーストラリアのニューサウスウエール州のほぼ中央に位置する。シドニーから北西へおよそ40km、飛行機で約1時間の距離。面積は約3,300平方km(美濃加茂市の45倍)、人口は約32,000人(美濃加茂市の7/10)。鉄道や道路の交通の要所として栄え、主な産業は小麦や綿花など農業と羊や牛の牧畜業。
 美濃加茂市とは平成元年に姉妹都市提携を結び、学生の相互派遣など交流を深めている。




鼓動が心に響く 牧野太鼓 目次

鼓動が心に響く 牧野太鼓
人が集い、太鼓が生まれ、鼓動が響いた
「太鼓を聞いてよかった」その言葉がうれいい
太鼓はみんなの汗と涙の結晶だ
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